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2013年2月18日 (月)

黒部の太陽、ノーカット版を見てきた話。

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彼らが通った後は草なんて一本も生えていない荒野と化してしまうような肉食男子系映画!ここ数年、一年に一度は観ているこれまた魂揺さぶられる系昭和の大作映画「八甲田山」と双璧をなす作品となりました。感無量。



石原の裕次郎アニキが「この映画はスクリーンで見てほしい」と映画人としてまっとうな気がする、でもそのせいでずっとソフト化されない作品になっちゃったわけだし、代わりにスクリーンにかかるかというとそんなことはなく幻の作品化してたことを考えると、現状先の発言はどちらかというとちょっと迷惑なものになっちゃってるなあという印象があったんだけど、それも含めてその他もろもろ名作には付き物の盤外戦の話が多くて大物感を感じずにはいられなかった黒部の太陽なんですが。


そのマボロシ具合がどのくらいだったかというとノーカット版は今までほとんど上映されたことがなく、去年BSプレミアムで久しぶりにテレビで放送された短縮版は久しぶりっつーには久々すぎる33年ぶり。ソフト化されていない現状どうしたって観る術がほとんどない状態だったみたいですな(東日本大震災の復興目的で上映もあったみたいなことがウィキペディアには書いてあるからここ1、2年は少しだけ見られる機会あったのかな)。

そのBSプレミアムでの放送を録画したものを友人から借りることが出来て去年初めて見たときの感想は、今じゃ考えられないくらい予算と時間、いい作品を作るためには安全? 労働基準法?そんなの関係ねーだろ!これは男の現場であり男の仕事だ!と画面から製作サイドの荒ぶる声が聞こえてきそうなくらいの迫力に一撃ぞっこん。そりゃスクリーンで見てほしいって言うわなーというパワーで一目ぼれしたのでござる。


そして今回、過去ほとんど上映したことがないらしいノーカット版を東劇でやるっていうのを聞きつけ馳せ参じてきたというわけ。


うーん、しかしなぜこのタイミングで秘蔵っ子にしてたノーカット版を公開?

イタコによって降臨させられた裕次郎アニキは机に片足乗っけて眩しそうな顔しながら「なあ兄弟?そろそろソフト化してもいいかいいんじゃないか。これが葉山の若大将スタイルってもんよ」とサムズアップに八重歯キラリ、葉巻スパーで石原プロ上層部を説得したのかわからないけど、なんと!『黒部の太陽』そしてそれ他ソフト化されていなかった5作品を詰め込んだDVD&ブルーレイBOXが3月20日に発売されるというのだ!(ごめん、裕次郎さん詳しくないから知ってるキーワードと昭和の大スターイメージで作り上げた捏造口調&所作&若大将は加山雄三!)恐るべし恐山!ビバイタコ!

そしてその絡みだと思われるイベントが(DVD発売の絡みであってイタコとの絡みではない!)、今回の『黒部の太陽ノーカット版』上映なのではないかと。

仕事を終えどちらかというと今日はこっちがメイン!と鼻息荒く受付で1300円(安い!)を払い館内へ。ロビーには40点以上もの当時の撮影時の写真が飾られていて、その白黒写真の迫力でもって俺のような精神が弱い人間はつるはしで一撃殴られたかのような衝撃に膝がガクガク、根性のないやつは見る資格なし!と昭和の男たちから洗礼を受けつつ入場、の前に3時間半というストロングスタイルを乗り切るためトイレに行って準備オーケイ席番号D-35に着席。



いまさらながらものすごくざっくりとストーリーを話すと、時は昭和の経済成長期、しかし関西は慢性的な電力不足。それを一発逆転起死回生の策が黒四ダム。しかし黒部ダムを作るには長野~富山に連なる立山をぶち抜かねばならずそれだけならまだしも一番の懸念はそこに中央構造線、フォッサマグナが走っていること。地層がぶつかりあっているフォッサマグナは破砕帯と呼ばれる大変もろい地層がありそれにぶつかると難工事に……なるという予想は見事当たってしまい、それをどうやって乗り越えたのかという話。




映画冒頭、出演者の名前が五十音順に右から左へと流れてくる。このフォントがかっこいい!カメラはそれに合わせたように真っ白な雪の立山(多分)を中心に左回りで映していく。うーむ、ここだけで今から凄いことが始まる予感バシバシ……。
ここからはネタバレ的なところ含むけど、知ったからといってどうこうなる映画ってわけでもない……とは思いますが予備知識無しで見たい方はいると思うので一応お断り。


序盤、ダムを作るために掘るトンネルがいかに大変かという説明も実にスマート。上に書いたように本州の真ん中には糸魚川静岡構造線、太平洋側は柏崎千葉構造線のフォッサマグナが走っていてこれに沿って破砕帯と呼ばれる地盤が脆い層がある見られている。この映画の登場人物たちがまさに今工事を行おうとしている場所はそのフォッサマグナに沿っていて難工事が予想されると。
石原裕次郎演じる岩岡は、割り箸をおもむろにバキッと折り「く」の字の逆の形を作り、上が北海道、下が九州、そして富山〜関東の日本列島が折れ曲がっている部分がフォッサマグナ、ここに破砕帯が走っていて落盤、出水が激しく予想されるからこの工事は危ないぜみたいなことを映像的に分かりやすい説明をしてた。なるほどなるほど。


映画はトンネル工事に入り、これでもかと襲ってくる困難な工事の数々を映し出していく。のだけど、話はそれだけじゃない。


観に行く前のこの映画の印象は岩波映画製作所製作の記録映画『佐久間ダム』みたいな超大作ドボク映画を想像していて、いや、そういうのだけ見せてくれるだけでも個人的に大満足ではあったのだけどドラマ部分もちゃんとしていた。って、3時間半もあるしこの豪華キャストなんだからそりゃそうだ。これは記録映画ではない。

以下ドラマ部分にフォーカス。
主人公の岩岡は最初この工事にはっきりと反対した唯一の人間で、それは難工事が予想されトンネルを完成させられることがかなり厳しいからそう言っているのだけど実はそこに父との確執も起因していることが徐々に明かされていく。


トンネル堀りである父、源三は人を人をも思わないとにかく仕事一筋、金のためなら死人が出ようが関係ないという人間で、そのせいで黒部第三ダムの工事では兄貴を死なせてしまっている(ここの話も凄い、というかこの黒三ダム工事の方が相当困難を極めている印象。ここの話を詳しく書いた小説に吉村昭『高熱隧道』があってずっと前から読みたいと思っていたけどいよいよ読まなければ感)。そのことを岩岡は憎み、こんな困難な工事を父にさせたらまた労働者に無理をさせて不幸な事故が起きると踏んでるからこの工事に反対。


だが計画は着工され岩岡も工事に関わっていく中で、当初建設反対だった彼は父と同じようにトンネル堀りに取り込まれ仕事に没頭していく。そしてある日労働者から「お前ら親子は俺たちを使って金をがっぽり稼いでいる!」と罵られ「俺は親父とは違う!」とは反論するも「いや同じだ!」と愛想を尽かされてしまい親父と同じ穴のムジナだと思われていたことにショックを受ける。

また父、源三は源三で未だに人殺しと岩岡から憎まれ、あれはしょうなかったと開き直っているかのように見える態度も、自分のせいで殺してしまったのではないかと苦悩する姿も描かれている。

黒四建設事務所、次長の三船敏郎演じる北川は懸念だった破砕帯にぶち当たり何ヶ月も停滞を余儀なくされた上についに事故が起き死人まで出してしまう。焦りと不安、もう絶対に抜けないのではないかと絶望を感じる頃、時同じくして私生活では長女の由紀が白血病になってしまい効果的な治療法なくなす術もない(多分当時の認識だと不治の病的な扱いだと思われる)、という二つが重ね合わせられ描かれてていく。


これらの人間模様が絡み合い、またトンネル工事がうまくいかない状況とも重なりあって話は進んで行く。



ドボク的なハイライトはなんといっても、懸念であったフォッサマグナにぶち当たり出水が止まらずさあ大変! というシーンなのだけど、スクリーンで見るその迫力たるや、一体何トンの水使ってんだよ!という勢いでトンネルの向こう側から水が流れそれに飲み込まれる労働者、そこに迫り来るぶっとい丸太で組んだやぐらみたいなやつ! それらが手前にあるカメラに向かってドーッ!!!と一緒になって押し流されてくるんだけど、あのシーン絶対やぐらに巻き込まれて怪我とかしてる人とかいるように見えてしかたがないんだけど……。


と、このシーンが終わると唐突に客電がつく。何事かと思ったらスクリーンに「休憩」の文字。どうやら休憩を挟むらしい。そういやBSの放送でも休憩あったような。なるほど、たしかにぶっ通しで観たら倒れる人間が出てきても不思議ではなない熱量。客への気遣い、さすが懐が深い。ここら辺が石原裕次郎がボスと呼ばれているゆえんだろうか。


後半戦も息つく暇もないくらい様々な試練が襲ってきて三時間半の長時間もあっという間。


最後に三船敏郎、石原裕次郎二人のこの映画にかけた意気込みを張り付けておしまい(写真折り目あって見づらくて申し訳ない)。
この二人の言葉を読むと、この映画を作ることそれ自体が黒部ダム建設の難工事と重なり合ってるな、などと思った。


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